トップに
戻る

読む 熊野古道・中辺路Ⅰ 第十話・上多和茶屋跡~大坂本王子

読む 熊野古道・中辺路Ⅰ
第十話・上多和茶屋跡~大坂本王子

熊野古道・中辺路Ⅰ-10

読む 熊野古道・中辺路Ⅰ

上多和茶屋跡(うわだわちゃやあと)を後にして大阪本王子跡を目指します。日没がせまってきています。「いそがないと」の思いが足を速めさせています。「平安人も、古道の日暮れに心細さを抱いたに違いない」そう思うと昔も今も同じだと感じながら、日暮れがせまる古道を歩いています。木々の間を縫うように歩きます。落ち葉が道一面に積もって絨毯のようにフカフカしています。しばらく歩くと前方に距離道しるべ18が見えてきました。滝尻王子を出発して9キロメートルの地点を今通り過ごそうとしています。道は急な下り坂となります。落葉樹の落ち葉がびっしりと古道を埋めていますので、すべりやすいので注意が必要です。右側が切り立つ明るく開けた古道を歩きます。聞こえるのは私の足音だけ、熊野の神々の静寂の中を左右が切り立つ稜線を歩いています。早足で歩いているので画面のゆれも大きくなってきています。前方に熊野伝承の三体月鑑賞地への分岐点に来ました。ここを右へ登って行くと、月が三つに見えると言う伝承の場所へ出ることができます。すこし寄り道です。三体月伝承とは、昔旧暦の11月23日に熊野の山で修験者(しゅげんじゃ)が三体の月を見て、不可思議な法力を得たと言う伝説です。近年は、その三体月を山上から拝もうと大勢の人が集まってきています。登りの道をしばらく歩くとススキが生い茂るポイントにでました。この山々の上に下弦の月が三つに見えると言います。国道311号線にその三体月のモニュメントを今も見ることができます。三体月への分岐点にもどって大阪本王子跡を目指します。ここから逢坂峠(おうさかとうげ)を経て、大阪本王子跡までは急な下り坂の連続です。距離道しるべ20あたりも、一段と急な下り坂です。注意が必要です。林道にでました。その道を右方向に進みます。江戸幕末の紀州藩の伊達千広(だてちひろ)は、この山の石は弱く欠けやすいという事で、次の句を残しています。逢坂や のぼる山路(やまじ)のくづれ沓(くつ)くずれやすらん おもむろにゆけと詠まれています。しばらく歩くと逢坂峠と書かれた花仙(かせん)の歌碑に出会えます。ここは昔、逢坂峠の茶店(ちゃみせ)跡で旅人の徒歩行きかいしげきとき祖父ここに住み茶屋いとなめりとあり、歌仙の先代が営んだと言うことです。この林道を横断してさらに下ります。杉林のなかに王子跡があります。落ち葉の中に立つ距離道しるべ21です。空はまだ明るいのですが、木々の中の熊野古道は一段と暗くなってきています。伊達千広が書いている「くずれ沓」という今も残る石くずの坂道を下っていきます。小さな沢の木で作られた橋を渡ると、向こうに大阪本王子跡が見えてきました。この大阪本王子の名は古く、永禄元年(1081年)熊野参詣の「為房卿記(ためふさきょうき)」に「大坂の草庵(そうあん)に着き泊まって猿の声を耳にした」と書かれています。また、江戸元禄の頃には社殿もあったという。今は、石積みされた社の跡と大坂本王子跡を示す石碑が、杉木立のなかに静かにたたずんでいます。本シリーズ最終番組となりました。次回はいよいよ新シリーズ、熊野古道中辺路Ⅱです。牛馬童子像から近露、とがのき茶屋、小広王子跡までの人気の熊野古道コースがスタートします。

熊野古道・中辺路Ⅰ 地図のご案内

熊野古道・中辺路Ⅰ

滝尻王子から大坂本王子まで

滝尻バス停→滝尻王子→不寝王子→剣ノ山経塚跡→距離道標4→高原熊野神社→一里塚跡→大門王子→十丈王子→上多和茶屋跡→大坂本王子

協力:社団法人 和歌山県観光連盟

地図をご覧になるにはAdobe Readerが必要です。