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第三話 うれしいプレゼント-1◆「僕は猫のハーティ」スニーカーをはいた猫の物語

WSTV連載小説

「僕は猫のハーティ」
スニーカーをはいた猫の物語

植村 鮎

第三話 うれしいプレゼント-1

ぼくは、ひろきの布団の上でごろごろするのが一番のお気に入りだ。
ひろきが寝てしまうとそっと猫足でベッドに登って、彼の赤いほほをぺろりとなめてやる。
すると彼は「うふふ」と笑う、気のせいではない、眠っているのに実にうれしそうに笑うのだ。その声を聞くと、ぼくもうれしい。
ぼくは彼の枕元にいっしょに寝る。かれの寝息がぼくの子守唄だ。
からだをドーナッツようにまるめてぼくも「うふふ、うふふ」と笑う。
後で人間が話すのを聞いたのだが、僕達の「うふふ」は人間には「ぐるる、ぐるる」と聞こえるらしい。僕の至福のひとときだ。
猫族の夜は、妄想の自由世界だ。
飛べない空を飛んだり、すずめも山のように捕っている。
空高く輪を描いて飛んでいる鳶だって捕まえてしまっている。
お母さんのおっぱいを口にふくんで、前足で交互に押して飲む。
おいしいミルクを飲んでいるのも夢に見る。
そして、大嫌いな夢もある、お母さんのおっぱいにしがみついていると、首の後ろをつままれて宙吊りになる悪夢も見てしまう。
この夢で「ギャー」と鳴いて僕は眼が覚める。
恐怖でキョロキョロして周りを見ると、ひろきの寝顔と寝息が僕をつつむのだ。
「ニヤオー」と小さく鳴く。僕はひろきのほっぺをぺろりとなめていた。
そして、また安心して夢の世界に入っていく。
寝坊してしまった。ひろきはとうにベッドにいなかった。
玄関のドアーか大きく開かれ音、そしてひろきの大きな声「いってきまーす」
僕は慌てて、玄関から走り出た。間に合った、ひろきと眼が合った。
ひろきは僕に「ねぼすけ!」と微笑みながら、頭をなぜてくれた。
ひろきが駆け足ででていく、僕もその後を着いていく、そして後藤さん宅の門柱の上によじのぼってひろきを見送る。ひろきの元気は僕の元気の源だ。
ひろきを見送っていると、どっかから「そこにいるのは誰だ!」とどやしつけられた。
はっと我にかえると、随分と遠くまで来てしまっていた事がわかった。
たいへんだ、猫族は縄張りが大切なのだ。
小さく新参者の僕は、ここではよそ者なのだ。
よく見ると、小さな猫だ。僕と同じくらいの大きさの猫だ。
「ごめんごめん」といいながら門柱から降りた。
「はやく、この縄張りから出ないと痛い目にあっちゃうぞ」とその青い眼の猫が、僕に話しかけてきた。
僕はパニックになってギャーといいながらその場所から逃げ帰った。
遠くで笑い声が響いている。「あはは、なんて弱虫なやつだ!あはは!あはは!」とそれでも僕は、夢中で逃げた。
ひろきのベッドの上まで逃げ帰ってきた。胸はドキドキ、心臓はパンクしそうだ。
ここまでくれば一安心だ。大声で「ひろき!ひろき!」と叫んだ。
が、しかし返事はなかった。
僕をおいてひろきはどこへ行ったのか。でっかい黒いものを背負って・・・と思いつつ、またねむくなってきた。僕は、また眠ることにした。
僕はまた夢の中